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60.火ノ神 火産霊①

Author: 霞花怜
last update Last Updated: 2025-07-19 19:00:53

 唇に柔らかくて温かい何かが触れている。

 体の中に、同じように温かい力が流れ込んでくる。

 優しくて強くて、少しだけ泣きたくなるような感情が乗った神力だと思った。

「こぅ、ゆ、ぅ……ぁ、ぅん」

 温もりが離れた瞬間に発した声は、また重なった温もりに喰われた。

 何度も唇を食まれて、熱い舌が口内に入り込んでくる。

 舌を舐めて吸われた瞬間に、霊力を吸い上げられた。

 気持ちが善くて、腰が疼く。

「流石に美味いな、酔いそうだ」

 聞いたことがある声だ。だが、紅優ではない。

 零れた声は蕩けて、既に酔っているように聞こえた。

「だ、れ……」

 うっすらと目を開く。

 鋭くて赤い目が、蒼愛を見下ろしていた。

「そのままでいろよ。火の加護を流し込んでやる。ちゃんと、俺を喰えよ」

「ほむすび、さ、ま……、ぁんっ」

 掴まえた顎を上向かせて、蒼愛の唇を塞ぐ。

 さっきより強い神力が一気に流れ込んできた。

 反動で背が反り、体が跳ね上がった。

 胸の奥が焼けるように熱い。霊元に火の神力が沁み込んでいくのが分かった。

「んっ、ぁ……、ぁぁんっ」

 神力を感じるほどに体が疼いて、股間が熱く硬くなる。

 抗えない快楽が全身を駆け巡るのに、刺激が足りなくて、もどかしい。

 彷徨う手が目の前の赤い着物を掴んだ。

「涙目で縋られたら、抱きたくなるだろ。こんな小せぇ体、俺が抱いたら壊しちまいそうだ」

 熱くなった股間に、火産霊が自分の股間を押し当てた。

 同じくらい熱くて、既に硬くなったモノが、蒼愛の男根を刺激する。

「ぁぁ! ダメ、やめ、て……ぅんっ」

 抱き寄せられて、火産霊の首に顔を寄せる姿勢になった。

 勢いで火産霊の首筋にあたった唇を押し付けた。

「欲しいなら、抱いてやろうか。疼いて

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     唇に柔らかくて温かい何かが触れている。 体の中に、同じように温かい力が流れ込んでくる。  優しくて強くて、少しだけ泣きたくなるような感情が乗った神力だと思った。「こぅ、ゆ、ぅ……ぁ、ぅん」 温もりが離れた瞬間に発した声は、また重なった温もりに喰われた。 何度も唇を食まれて、熱い舌が口内に入り込んでくる。  舌を舐めて吸われた瞬間に、霊力を吸い上げられた。 気持ちが善くて、腰が疼く。「流石に美味いな、酔いそうだ」 聞いたことがある声だ。だが、紅優ではない。 零れた声は蕩けて、既に酔っているように聞こえた。「だ、れ……」 うっすらと目を開く。 鋭くて赤い目が、蒼愛を見下ろしていた。「そのままでいろよ。火の加護を流し込んでやる。ちゃんと、俺を喰えよ」「ほむすび、さ、ま……、ぁんっ」 掴まえた顎を上向かせて、蒼愛の唇を塞ぐ。 さっきより強い神力が一気に流れ込んできた。 反動で背が反り、体が跳ね上がった。 胸の奥が焼けるように熱い。霊元に火の神力が沁み込んでいくのが分かった。「んっ、ぁ……、ぁぁんっ」 神力を感じるほどに体が疼いて、股間が熱く硬くなる。 抗えない快楽が全身を駆け巡るのに、刺激が足りなくて、もどかしい。 彷徨う手が目の前の赤い着物を掴んだ。「涙目で縋られたら、抱きたくなるだろ。こんな小せぇ体、俺が抱いたら壊しちまいそうだ」 熱くなった股間に、火産霊が自分の股間を押し当てた。 同じくらい熱くて、既に硬くなったモノが、蒼愛の男根を刺激する。「ぁぁ! ダメ、やめ、て……ぅんっ」 抱き寄せられて、火産霊の首に顔を寄せる姿勢になった。 勢いで火産霊の首筋にあたった唇を押し付けた。「欲しいなら、抱いてやろうか。疼いて

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